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びわ湖漁師 中村清作 新聞コラム第3話 2014年5月28日掲載


 
 
 
 
 
 
 
  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

  
 

魚のオアシスこっちだよ

僕は小さい頃、農家が好きではありませんでした(おいら馬鹿正直)。田んぼは泥で濁った水を湖にジャージャー流す悪い所って思い込んでいました。でも、漁業を始めて、湖の魚が田んぼにすっごい助けられていることを知りました。田んぼに数匹のふなを放すと1万匹以上の稚魚が産まれ、微生物や虫を食べ、一定の大きさになると湖へ戻る。田んぼは、産卵寸前の魚達が流れの速い川を懸命に上がり、やっとの思いでたどり着くオアシス。子どもを育てる最高の環境なんです。

な・の・に!今は魚が自力で田んぼに入れない! 圃場整備で自然が自然ではなくなり、水路と田んぼにできた高低差で魚がヒョイッと入れなくなった。もう一度魚が安心して生まれる田んぼにと、自力で木で魚道をつくってがんばっている「たかしま有機農法研究会」の梅村泰彦さんの田んぼへ行きました。

うちのふなずしは、ふなやナマズが泳ぎ回る梅村さんの田んぼでとれるお米で漬けます。「田で生まれ育ち湖にかえったふなが、田で育った米とまた一緒になる」、そんなコラボふなずしなんです。梅村さんは、除草剤を使わずほぼ毎日草刈りに出ていてムキムキマッチョ。「雨が降って田んぼの水が出るとここを魚があがってくるねんなぁ」と教わりながら、傷んだ魚道をとりかえ、新しい魚道を固定する杭を二人で打ちました。そりゃあ濁水は流れないのが一番よい。でも、雨が降ったら水は流れる。その水を待ってました!とお腹にたくさんの生命を抱えながら必死で上がる魚たち。「こっちだよ」と温かく迎えてくれる農家さんたちに、心から感謝したい。

文 / 中村清作
写真 / オザキマサキ

びわ湖漁師 中村清作 新聞コラム第2話 2014年4月23日掲載


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うちのふなずし 天然の味

ぼくの住む海津大崎では、桜の開花と同時に霰が降る少し寒い春の訪れとなりました。春といえば桜ですが、漁師中村の春はふなずしです。ふなずしは一般的にはお正月のごちそう。発酵がよく進む土用に漬け、お正月前に新物ができあがります。でも、うちは1~8月コアユ漁に全力を注ぐため漬けるのが遅れ、できあがりは3月です。厳密に言うと、親父が「できた!」と言わないだけかもしれませんが…(笑)

ふなずしといえばニゴロブナ。ずーっと沖合に出て、水深50㍍くらいの琵琶湖の底に網を入れて捕ります。2~3日後にあげると、網に刺さったニゴロはまだピチピチ生きてます!でも実は、ふなずしは僕たちがヒワラと呼ぶギンブナでも美味しくできます。うちで食べるためのふなずしの桶にはニゴロとヒワラがごちゃ混ぜで入ってます。どれも美味しくて、ヨダレが……。おっと。

うちの作り方は良い意味で適当です。お米に漬けた後は、重しをし、水を張ったらビニールをかぶせて外に放置!ひたすら放置!触らない!無視!自然の力で勝手にできあがります。自然って偉大です。昔はどこの家の軒先にもふなずしの桶があったと聞くので、これが当たり前の姿なんだと思います。そして僕がたったひとつ言いたいのは「自分で作ったふなずしを自分で桶から出す。その一匹が本当においしい」ってこと。今年は天然ニゴロブナが豊漁です。ご自宅でマイふなずしに挑戦してみてはいかがでしょうか?

文 / 中村清作
写真 / オザキマサキ

びわ湖漁師 中村清作 新聞コラム第1話 2014年4月2日掲載


 
” 湖の今 ”  僕の言葉で

琵琶湖で漁師してます中村です。えっ 琵琶湖に漁師がいるん?って思ったそこのあなた! 減ってしまいましたが、それでも800人以上が毎日漁をしています。琵琶湖に50種の魚がいて、今も毎日あちこちの港でたくさん水揚げされている。でも悲しいかな、なかなか食卓まで届かない…。

僕は、地元の学校を出て地元の工場に2年勤めました。太陽が当たる頃に出勤し、蛍光灯の下で黙々働き、夜暗くなって帰る。寝て起きてまた出勤。おひさまのない生活。この仕事が悪いとはちっとも思いません。ただ、もっと面白い生き方がしたかった。思い出したのが、親父が夕陽とともに船で漁港に帰ってきて捕れたてのコアユを軽トラにドンドン積み込む姿。小さかった僕は助手席にチョイっと乗り込み、佃煮屋さんにコアユを配るのを手伝った。あの頃の記憶。あぁ漁師してみよっかな……。

それから親父の船に乗りました。今は、いろんな仲間と情報交換をし、その日の風向き、潮の流れ、ここ数日の天気や気温、狙う魚の行動パターン、魚群探知機の反応、いろんな事を考えて網を入れます。が、親父の経験と勘にはまだ勝てません!(笑)今に見とれよ……と闘志を燃やしながら気つけばもう8年。歳になりました。これから1年、湖の目線で、僕の言葉で、琵琶湖の「当たり前」を発信していきます!

文 / 中村清作
写真 / オザキマサキ