びわ湖漁師 中村清作 新聞コラム第10話 2015年1月28日掲載

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

凍る氷魚漁 暗闇の静と動
 
琵琶湖は鮎の稚魚、氷魚の季節です。とれ始めた!とのことで、野洲でエリ漁をする「兄貴」のもとへ行ってきました。
 
写真家のオザキさんと夜のドライブ。午前3時半に港で兄貴と合流、いざ出航!真っ暗闇の湖上は厳寒、光が反射しないためほとんど何も見えません。凍てつく船はつるつるで、よく滑ります。湖にはまると本当に命にかかわる話です。
 
15分ほど走り、チカチカ赤く光るランプに近づいたと思ったその時、ライトに照らされてエリの黒いポールの列が浮かび上がりました。間隔も高さもビシッとそろい、間につけた網はピン!と張っている。きれい。兄貴が琵琶湖でも漁獲量上位なのはやることをやっているから。
 
兄貴は1人で別の小舟に乗り込み流れるような作業でドンドン網を上げる。たくさんの魚が見えてきて「水族館みたい!」と喜ぶ僕とオザキさん(笑)。兄貴は4種類のたも網とザルを使い分け魚を少しずつすくいあげる。目の前に何十㌔と泳いでいるのに、とてもすばやくとても丁寧に。魚を傷めず、ゴミや違う魚が混ざらないための工夫です。
 
氷魚はとても繊細で、少し無理をしたりモタモタしたりしているとすぐに死んでしまいます。船から身を乗り出し、ザルで1㌔くらいずつエリからとりあげ、クルッ!と振り向き、船の大きな水槽の前でピタッ!と体を止め少しずつ移していく。その繰り返し。まさに静と動。
 
気温は氷点下なのに兄貴の体からは湯気が立ちあがり、声もかけられない空気になっていた。魚をとるだけが漁師じゃない。良い魚をみなに食べてもらいたいんやと兄貴の背中から聞こえてきた気がしました。
  
文 / 中村清作
写真 / オザキマサキ

びわ湖漁師 中村清作 新聞コラム第10話 2015年1月7日掲載


 
鮒味噌 湖北の冬の妙味
 
あけましておめでとうございます。年末年始、どうお過ごしでしたか? ぼくは大晦日まで、いつもお世話になっている長浜市の淡水魚専門店で売り子さんをしていました。ここで過ごす一日一日が実におもしろい。この季節は子持ちの鮒がとてもおいしく、たくさんの方が買いに来られます。どうやって食べるん?と聞くと、鯉の煮付みたいに醬油で炊く人もいれば、「鮒味噌」といって味噌で炊く人もいます。

「鮒味噌」は湖北の冬の味です。知ってたらなかなかの湖魚マニア。あっさり炊いて身をほじくって食べる人もいれば、番茶やほうじ茶でコトコト骨まで柔らかく炊き、味噌・砂糖・酒を加えてさらに姿がなくなるまで煮る人もいます。調べてみると、元々は岐阜県や愛知県の郷土料理。どんなものなのか岐阜県の魚屋さんまで買いに行ってきました! 岐阜県はやはり赤味噌でした。隣の長浜では赤味噌派と普通の味噌派がいます。各家庭で味も作り方も全然違うんです。まとめて炊いて、ご近所さんに「おいしく炊けたよ」って配るのが定番。きっと「おいしかったわ! どうやって炊いてるん?」の一言がうれしいからだと思う。

「みな喜んでくれたわ! 全部配ってしまって自分のがなくなってしもたし、また買いに来た!」って聞くと、漁師として心からありがとうって思う。ぼくたち漁師は魚を捕るだけやと食べる人と気持ちが離れてしまうけど、お客さんの喜ぶ顔やありがとうの一言で「こんなに必要とされてたんや」と気付く。今年もがんばるぞ!  
  
文 / 中村清作
写真 / オザキマサキ
 

びわ湖漁師 中村清作 新聞コラム第9話 2014年11月26日掲載

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

超一級品 親父の手作り網
 
船を走らせると湖上はもう冬。僕の船にはキャビンがないので寒いのなんのって……。いよいよ小鮎漁の始まりがちかづき漁師たちはそわそわしてます。さてきょうは網の話を少し。
 
北風がよく吹くこの季節、漁に出られないときは網の掃除や修理をします。僕とオカンは網掃除、親父はひたすら部屋にこもって網を仕立てます。漁法や魚の種類・大きさによって本当にたくさんの種類の網が必要で、うちは網用に倉庫を3カ所も借りています。
 
おじいちゃんが使っていた網も修理してまだ使っています。ひどく傷んだり、違うサイズが必要になったたりした時は親父が作ります。網の真ん中のふわふわの部分に、上のロープと重りが入った下のロープをコツコツ縫いあわせます。
 
急ぐ時は網屋に作り方を指定して仕上げてもらうこともできるのですが、網屋がミシンで縫った網は、親父が自分の手で何日もかけて作った網と比べると魚のかかりが全然違います。ふわふわ部分は既製品で同じなのですが、上下のロープを縫い合わせるのに手と機械ではほんのわずかな違いがあり、そのほんのわずかな違いで網目がきれいなひし形にならず魚がかかりません。漁師によっても作り方や糸の太さ、種類が違い、魚のかかりが全然違います。
 
おじいちゃんから受け継いだ技と、毎日琵琶湖に出て感じるコトや変化を少しずつ反映させてできた親父特製の網。超一級品です。たまぁに引っ掛けて破れたりすると、やってもうた!っと冷や汗が出ます(笑)
  
文 / 中村清作
写真 / オザキマサキ